投稿欄


Spainfan

地質学 矢島信夫

前に郊外のドニーノス村にアストゥリアス風のりんご酒をのませてくれるレストランに招待してくれたホセ・ナバレッテさんと
日本文化の授業が終わって雑談している時にいつか飯でも又一緒に食べようということになって日本料理屋がないのは残念だと
いうので、それならいっそ我が家へ一度いらっしゃいということになり、11月終わり頃の日曜日に我が家に招待した。その時、
彼は初めて箸を使うことを覚えスモークド・サーモンの上にあったケッパーをつまんでは得意になっていた。まあ、そのお返し
というので今日、17日の日曜日にどこかに出かけようと招待してくれた。奥さんは料理が全くダメだというのでパラドールに
行って食事をすることになった。実は昨日フォンセカの礼拝堂でサラマンカ大学のコーラス部のクリスマス・コンサートがある
というので芳賀先生も誘って聞きに行った。その時偶然にホセ・ナバレッテ夫妻も来ていて一緒に聞いたのだが、帰りにナバレ
ッテさんが「明日はよければ芳賀先生も誘ってもいいよ」というので言葉に甘えて彼も一緒に誘って行くことにした。

Acuamarine

ホセ・ナバレッテさんはグラナダ出身の人でドイツで地質学を学びそこで今のドイツ人の奥さんと知り合い結婚したとかでグラ
ナダ訛りのスペイン語とドイツ語訛りのスペイン語にはいささか聴きずらいものがあったが、ともかく会話の練習にはなる。

丁度約束の2時ぴったりにベルがなってさすがにドイツ人の奥さんがいるだけのことはあるなあと感心する。ドニーノス村に行
った時と同じ車なのだがマフラーは取り替えてあったのであの時のような奇怪な音はなく割と静かな音で五人が乗り込み出発した。
相変わらずオートマのギアーチエンジがギクシャクしているが、そういうことを気づかせまいと片手ハンドルで危なげな運転を
しながら何かと話し掛けてくるがこちらは運転が気になって話しに集中できない。トルメス河を渡って南側の丘の中腹にあるパ
ラドールに向かう。
テーブルは対岸のカテドラルなどがよく見える景色のいい窓際に席をとる。

三智子は昨夜遅くコンサートの後で芳賀先生も交えて中華料理を食べにいき、ちょっと食べ過ぎたとかで前菜はなしで魚のメイン
だけにしようとするのだがナバレッテさんは気を利かせて三智子に野菜サラダなどを注文してくれた。それでなくとも牛タンの
煮込んだものにハモン・イベリコ(生ハム)をパンに載せたカナッペなどが皆の前に前菜としてもってこられてこれだけでもう、
敢えて前菜などなくても良さそうではある。

ナバレッテさんが頼んだきのこの煮込みは皆で分けて食べたのだがこれはうまかった。

僕はメインに子羊のあばら肉の焼いたものを頼んだがあまり量が多くなくてしかもうまいものだった。

食後は彼の家でお茶でも飲もうということでコバドンガ通りのアパートに行く。かって家捜ししていた時に結構気に入ったアパー
トがやはりこの通りにあったのだが付近が落書きが多くてやめてしまった。そこから2−3軒隣だった。

玄関に入るや否や大きな水晶が足元に置いてあった。

Esmeralda

どこもそうだがさして広広した部屋というわけではないが2階があっていくつかの部屋があり夫婦それぞれの個室もある。居間と
彼の個室にはタンスがそれぞれ2つ、3つありその上に飾り棚があって照明が入るときらびやかな彩りの石が一杯飾ってある。

一つ二つ質問をするともう良くぞ聞いてくれたといわんばかりに色々説明してくれる。こちらはこういうこともあろうかと小さい
辞書を持参していたのでそれと首っ引きで説明を聞く羽目となった。

「この石とこの石は色が違っていても同じAlabastro(雪形石膏)だ」とか、「これはBasalto(玄武岩)だ」とか、その他、
Cuarzo
(水晶)だのPilita(黄鉄鉱)だのYeso(石膏)だの日頃、縁のない言葉が次々と出てきてこちらは戸惑うばかりである。

それにしても実に多くの種類の石を集めたもので飾り棚の下にある引出しにはこれまた一杯に色んな石が小箱につめて収納されて
いる。中に
Schelitaという電球のフィラメントに使うというものもあったのだがこれはなんと言うものなのか辞書に出ていない。

 

収集した場所などもスペイン国内はもちろんモロッコだのカメルーンだのまた、どこかの砂漠だのと色んなところから集めてきた
ものだそうだ。

突然四国の石の川というところを知っているか、と聞いてくる。僕はまだ四国には行った事がない。なんでも良質のアンチモンが
とれるのだそうだ。

そのうちに直径が7mmくらいで高さが3cmくらいの大きさの人形のような石があって頭の部分がオパールで体の部分がトパーズ
だという。引出しの中から
Ultravioleta(紫外線)電灯を持ってきて紫外線の短波の方を当ててみるとオパールの頭の部分がものの
見事な緑色の蛍光に輝く。

貴石の硬度はF.Mohs教授発明の1から10までの段階があって、一番柔らかいのが1で順次硬いものになっていく。


Rub i

1がTalco(滑石)

2がYeso(石膏)

3がCalcila(方解石)

4がFluorita(蛍石)

5がApatito(リン灰石)

6がFeldespato(長石)

7がCuarzo(水晶)

8がTopacio(トパーズ)

9がColindon(赤いのがルビー、青いのがサファイヤ)

10がDiamante(ダイヤモンド)

ということだ。

また、エメラルドとアクアマリーンも色が違うだけで同じものだという。

それではどうやってその硬度を測るのかという問題になるといろいろ説明してくれて一番やさしい方法は二つのものを引っかいてみて
傷がつく方が柔らかいものだという。これは素人でもよく分かる。石の平面はひっかいて硬度を測れるが凸凹の表面で硬度を測るには
ハリのようなものに負荷をかけて傷の大小で判断するものもあるという。さらに専門的には
Sklerometerというものがあるそうだ。

ナバレッテさんが熱心に説明してくれている間に三智子たちはそんな貴重な石に引っかき傷なんかつけられないわねえ、などとうそぶ
いている。


Topacio

三智子はそのうちブリー(ナバレッテの奥さんの愛称)が絵を描くという話を聞いて壁に掛けてある風景画などについてあれこれ問い
ただしている。「これはアルメンドラの花が咲き乱れている所で場所はポルトガルとの国境を隔てているトルメス河の下流だ」とか、
「グラナダのアルバイシン風景だ」とか「サラマンカ郊外のエルミータだ」とかすっかり絵のほうに話題が移っている。

ナバレッテは構うことなく今日のハイライトをお見せしようと少し大きめの石を持ってきた。ニュージャージーのフランクリンという
ところから取れた石で
Willemita(茶色)、Calcita(白色)とFlancnita(黒色)の曼荼羅模様の石だ。

部屋の電気を消して例の紫外線電灯をつけて照らしてみるとWillemitaが鮮やかな蛍光緑色にCalcitaがマンガンが混じっているという
のでけばけばしい赤色に輝いていてじっと見つめているとジャングルの大火事のように見える。芳賀先生はまるでオーストラリアの何
とかロックという大きな岩にアオカビが生えたようだといっていた。

誠に面白いものをみせてもらったものだ。

ナバレッテさんには4人の子供がいてそれぞれ独立していて息子の一人は日本人と結婚していて今横浜に住んでいるという。

このクリスマス休暇はカナダの実家に帰って過ごすつもりだという。えっ?カナダに?

一瞬疑ったのだがブリーはフランス語も話すのでグラナダといっているのにこちらにはカナダと聞こえてしまうのだ。

昼食の時にしこたま飲んだワインの酔いももうすっかり覚めてそろそろお暇しなくっちゃと時計を見たらもう7時40分をまわっていた。
月謝も払わないで長時間に亘っての地質学の講義にお礼を言って何時の間にか雨が降っていたらしく濡れた道を歩いて帰った。

芳賀先生もグラナダ訛りとドイツ語かフランス語訛りのスペイン語に6時間近くもお付き合いさせられてさすがに疲れた表情であった。


表紙