Spainfan


  郷に従う主義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・クガモンギー


「机の上で学ぶだけではなくもっと外に出て生きたスペイン語を肌で感じなさい.
」最初に入った語学学校の担当教師から耳にタコができるほど云われて,それが嫌で
嫌でたまらなかった.何度も『どーせ私は陰気な日本人ですよ.お気楽なラテン人と
は育ちが違います.』と心の中でつぶやいた.でも現金なもので現地の友達が一人二
人と増えるにしがって毎日のように出歩くようになっていった.そうなると本来の出
好き,喋り好きが幸い(?)して,一日のメインが飲み歩き(良く云えば会話の学習
)になるまでさして時間はかからなかった.今度は『郷に入っては郷に従えだよね』
と,つぶやいていた.
 彼等とBar(飲み屋)に出ると常に「y tu?」(君は?)と聞かれた.それは「何を
頼むのか.」であり「どう思うのか.」という意味であった.「同じものを」とか「
私もそう思うわ.」などと答えると,すぐさま「本当にそれでいいの.」「君の意見
は?」と返えされた.

 スペイン人は4人集まると5つの政党が出来ると云われるほどの討論好きで,自己
主張が激しい.その中ではっきりと物を云わぬ者は考えを持たぬ人ととられることが
よくあった.ネイティブの彼等のように喋ることができなくてもそれなりに考えを主
張しなくては一人前に見てもらえなかった.そのうちに「こいつはnena(赤ん坊)だ
から.」と云われると腹も立ってくるので次第に会話の輪の中に入り込むようにして
いった.とはいえ,急に語学力が向上するわけがないのでそれなりの工夫が必要であ
った.
 まずは,耳をダンボ状態にして彼等の話しに神経を集中した.そして分かる単語を
拾い集めて意味をつかむとここぞというところで一言二言気の利いた台詞を云って興
味を引いた後自分を会話の流れの中心に置き私のレベルで話しを進めることにした.
数ヵ月後私の口癖は「Escuchame!(聞いてよ)」になっていた.今にして思えば彼等
にはいい迷惑だったかもしれない.でもいささか自己中心的にな考えを持って行動し
ないと彼の地では時として何も通用しないのである.
 再確認をしたにもかかわらず飛行機の席が無いと云われれば,仕方ないなと諦めず
に「冗談じゃないわ.私には乗る権利があるのよ!!」位のことを力強く主張すれば
,なっかったはずの席を用意してくれるのである.(エコノミーがビジネスクラスに
なることなど日常茶飯事なのだ.但し,食事はエコノミーのままだったけど.)言葉
の流暢さなど関係無い.気迫が大切なのである.


 日本に帰ってから数人の友人から「変わったね.」と云われた.わずか1年の滞在
である.そんなことがあるわけないと思っていたら今度は親も含めて友人達が口を揃
えて「キツクなった.」と云うのである.別に人を傷つける様なことを云ったわけで
も理不尽なことをしたわけでもないのにである.ただ,云わなくても(いい)分かる
『あ.うんの呼吸』からは遠のいていたかもしれない.
『云わなければ分からない世界』そのままに行動していたのかもしれない.でもそこ
で「スペインではね.」と云おうものなら『スペインかぶれ』と,いわれのない迫害
を受ける恐れがあったので,小心者の私は『郷に入っては..』の精神で沈黙は金を
実行した.そしてまた『あ.うんの呼吸』の世界に戻ったのである.
 強くなれない私が悪いのだろうか.それとも...?

表紙へ