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Spainfan
日本文化週間 −その2−
第四日目の15日。この日は一番忙しかった。でも色んな人が協力してくれた。
前日に引き続いて火おこしの道具を揃え少し早めに中庭で火を起こす。時間一杯に
茶釜を部屋に持ち込むとすでに琴の演奏が始まっている。葉月さんの紹介をして、お
茶の手前を脇の方から見ていると、もうすぐ次の水墨画の実演が始まる時間が迫って
いる。様子を見に行くと此処も既に超満員。この実演をどうやって開始するんだろうと
一瞬考え、そうだ前に送ってきてくれた竹中師匠の略歴書があったはずでこれをベー
スに紹介してあげようと机に戻って探すのだがなかなか見つからない。日頃の書類の
整理がちゃんとできていない。あれこれ引っ掻き回しているうちにようやく見つけその
紙切れを持って廊下を走る。会場ではいまや遅しと盛り上がっている。簡単に師匠の
略歴を紹介するとそのまま僕が通訳をする羽目になってしまった。何しろ誰も面倒を
見てない。

最初に松に日の出の絵を描いて見るという。この墨の特徴は一旦乾いてしまうとその
上にどんな色を塗っても「にじまない」といい、松の枝の上に太陽の赤い色を塗り始めた。

さて、「にじまない」ってスペイン語でなんと言うんだろう?すぐに出てこない。観客席に
向かって「なんていうんだ?」って耳に手を当て聞いてみる。色んな人が色んなことを
言って教えてくれるのだが良く聞き取れない。そのうち若い女の学生が「ノー、メスクラ」
といって教えてくれた。一瞬会場は安堵のどよめき。「混ざらない」って言ってくれたら
すぐに思い出したのに。次に桜と富士山の絵を描くのでしばらくは見ていてくれと言う
ことだったので、次の会場であるビデオの準備を見にそっと後ろの扉から抜け出して
ビデオ会場に行く。これがまた誰が決めたのかプログラムに描いてある会場が変わっ
ていて一番上の階の一番奥の教室になっている。ビデオテープをもって駆けつけると
電源が入ってない。いろいろホセがいじってくれるのだが電源が入らない。こういうとき
は落ち着かなければと一つ一つコンセントなどを確認してやっと電源が入る。見ると「能」
のテープは30分とある。時間が余る。とっさに去年日本文化講座で使った「能」の講義
禄を探しにまた机に戻りファイルの中から探し出しビデオ上映の前に即席講義をする。
講義が終わってビデオをセットして、はて? しまった!水墨画の方がほったらかしにな
っている。あわてて廊下を走って裏口から会場に入ると一瞬どっと笑い声がする。見ると
師匠のそばで観客にいたと思われるペルーの日系人の小波津フェルナンド君が臨時通
訳をやってくれている。彼はもともとペルー生まれだからスペイン語は達者なのだがスペ
イン語の先生になるための勉強にサラマンカに来ている人だ。

ワイシャツ姿なのに汗が流れる。
しばらくして彼が席につき僕がまた通訳をやることになったのだが、途端に難しいことを
師匠が言い始めた。江戸時代の丸山応挙が「まず真をみて、気を迎え、意を理解して、
現せばいい絵がかける」といったそうだ。その意味するところは「まず対象の真の姿をよく
観察し何度もスケッチをしなさい。そしてその対象がもっている気を受け止めなさい。そして
その対象の位置しているところの意味をよく理解しなさい。そして感じたところを率直に表
現すればいい絵が描けます」ということだそうだ。

「気」なんて言葉はどうして理解してくれるのか、とっさに「東洋思想では宇宙にある如何
なる物にもエネルギーがこもっていてそのエネルギーを自分の身体に吸い取る」ことだと
説明したのだが分かってくれたかどうか、後で芳賀先生に聞いたら「それでよかったのでは
ないか」と言ってくれたのでまあ、一安心。

しかしその一方で美智子妃記念ホールでは水墨画の取り外しとその後、翌日から28日ま
での山本温子さんの日本画展示の準備が待っている。前もって必要なことは言ってあるの
で放っておいても問題はないだろう。

一応拍手で水墨画の実演会を閉めておいてビデオ会場に急ごうとすると日本語クラスの
何とか言う男がそばに寄ってきて何か手伝うことがあったら言ってくれという。

ビデオ会場に駆けつけると丁度今、終わらんとしているところでタイミングよし。
この日の行事が一通り終わったところで玄関ロビー近くで色んな人が未だ屯している中に
ロペス所長がいるのを見つけた。そういえばまだ竹中師匠を所長に紹介してなかった。

急いで所長のところに連れて行きお互いに挨拶をする。「また、来年も来て下さい、」と言えば
「是非又来たいものです」、そして「サラマンカは何時でもあなたを歓迎します」などと言う会話
で双方ともに満足気でよかった。

横からペドロがどの会場も満員で入りきれなかったので来年は更に増築をしなければならない
ねえ、などと言い所長も満足気であった。


16日の金曜日は最後の日である。
「茶の湯」ももう三日目である。連日立ち見席もないほどの入りである。
琴の演奏の紹介から茶の湯の開始など仕切ってから次の折り紙の準備を見に行く。
簡単な打ち合わせをしたあと茶の湯の会場に戻り、頃合をみて〆る。
その後、畳を部屋の外に出し、重い大机を運び込むのに付近にいた人たちが一斉に協力して
運び込んでくれる。ありがとう、ありがとう皆ありがとう。

留学生である藤岡由梨子さんが中心でアシスタントが6人、いずれも留学生のボランティアを
集めた。先に日本文化紹介クラスで僕が正月休に帰るとき臨時に折り紙教室をやってくれた
折出順子さんがデモ用にと大きな折り紙を用意してきてくれていて説明は由梨子がやることに
なっている。彼女はお父さんが日本人でお母さんがスペイン人のハーフでスペイン語が達者で
ある。茶の湯を一応お開きにしておいて「折り紙組」を迎えに事務所に下りていき皆準備オー
ケーを確認して会場に引率して引き連れていく。

最初に鶴の折り方を教える。僕も一緒になって教わる。
会場は厳かな茶の湯の時とは変わって和やかなムードである。時々あちこちでシーッ!!と
言わないと聞き取れないくらいに盛り上がっている。皆楽しそうだ。日本語クラスの10歳になる
ラウラとクララも一緒になって鶴を折っている。

ついで風船の折り方を説明して教える。
この期間中に「活花教室」をやって欲しい、とか「折り紙教室」を開いて欲しい、とか反響は大き
かった。

後で芳賀先生などが一斉に言っていたことだが「結局一番楽しそうにやっていたのは矢島さん
じゃないの!」と言われた。忙しかったけど、きっとそうなんだろうなあ、と思う。


この行事の間にやっぱりスペイン流というのはこういうことなんだということが分かってきた。最
初に大枠の行事が決められたら、詳細な計画なんてものはなくて、その時その場にその人がい
ればその人が自発的に自分のやれることを見つけて手伝う。

そして結果的になんとか全体的に出来上がってしまう。はじめからきめ細かな計画というのがあ
るわけではない。

そのことをスペイン語ではimprovisar(即興的にやっつけてしまう)というのだそうだ。

以前JALの乗客誘導の話と言うのを聞いたことがある。
最初JALの乗務員が到着後乗客を降ろすときに右側の列の人はこの通路、左側の列の人はこ
ちらの通路へと誘導するのだがこの規則を厳格に守って誘導するといつか片側がもう人がいなく
なってももう片側の人が決められた列に並んで降りなくてはならない。この方法は文明の遅れて
いる人たちを誘導するにはいいが文明の進んだ人たちを誘導するには適さない。文明の進んだ
人たちを誘導するには自由にさせたほうが結局効率よく降りてくれるのだという。

スペイン人は細かなことをいちいち指示しなくても「出来てしまう」。文明が進んでいるのだろう。
バルセロナのオリンピックしかり。日本の成功は個々の教育程度を高めておいて原始人指導方
式で高度成長を遂げたのではないかな、と思う。

文明が進んでないから細かく指示しないと人は動かない。その結果指示待ち人間が多くなって
くるのかなあ。                    以上。


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